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陰気なサーカス

えとぶんしょうをかくそんざい

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BLACK SHEEP TOWN感想 ~黒い羊は、何の夢を見るのか?~

 半はネタバレを含まない全体的な感想。後半はネタバレ含んだ、より細かな感想。


1.はじめに

 瀬戸口は、人を書くのが得意なシナリオライタだと認識している。彼の書くキャラにはそれぞれ過去があり、思想的な背景があり、それが現在の言動へと繋がっている。キャラの行動に説得力があるのだ。フィクションでありながらも奇妙なリアリティが感じられる。群像劇というテーマは、そういった彼の特性と合っていると感じた。それぞれのキャラにちゃんと味と魅力があって、退場するのが惜しいな、と感じる場面も多くあった。改めて、やっぱり瀬戸口廉也は力のあるシナリオライタなのだなと感じた。
 本作は、ノベルゲーとして非常にクオリティが高い。特に、tipsのシステムが良い。人や専門用語がいっぱい出てくると脳のリソースをそちらの把握に割かれるため、物語に没入しにくくなるのだが、それを見事に解決してくれていた。チャート式の物語の選択場面も、「なるほど、ここに繋がるのかぁ」と感心しつつ、楽しむことができた。あと、さっぽろももこのBGMも素晴らしかった。絵の雰囲気やさっぽろももこのBGMのせいか、全体的にliar softの雰囲気を感じた。
 ノベルゲーは、唐辺葉介ではなく、瀬戸口廉也でなくては作れなかった。だからこそ彼は戻ってきたのだろう。そして2017年の制作発表から約5年、素晴らしいノベルゲームを再びプレイすることができた。それが、素直に嬉しいと感じた。


 全体的な感想は以上。





















 以下は本作および瀬戸口廉也と唐辺葉介の過去の作品のネタバレを含む。

2.不満点

 とりあえず面白かったのは間違いないが、瀬戸口廉也の作品としてはイマイチだとも思っている。これは好みの問題かもしれない。けど、swan songやキラ☆キラ、musicus!と比べて面白かったかと問われると、こたえは否である。キャラクタは非常に魅力的だった。しかし、シナリオ本体はそんなに……というのが素直な感想だ。

 というのも、本作の黒幕であるコシチェイの目的がつまらないからだ(これは作中でも灰上姉妹に、つまらない目的だと云われていた)。ギャングをはじめとした様々な組織の思惑、貧困や差別、その他もろもろがミキサでシェイクされたY地区が、コシチェイによって一波乱起きる、というのが本作のあらすじだが、そのコシチェイがつまらないため、物語全体も締まらない感じだった。

 グレートホールやミュータントの出自についても、最後までメカニズムが明かされない。舞台装置と云われたらそれまでだし、これについてはエンディング後の菅原亮と汐松子が解き明かしていくのだ、と(好意的に)解釈することもできる。でも、ただのギャングのクライムアクションではなくて、そこにミュータントというSF要素をぶち込んだ以上は、もう少し説明が欲しかったようにも感じた。

 さらに、物語として、必ずしもそうであるべきではないにせよ、悪いことをした人間はそれなりの報いを受けるべきだと思う。具体的に罰が足りないと感じたのは、灰上姉妹とコシチェイ。前者はよくわからない行動原理でさんざん物語を引っ搔き回しておいて、片方は普通に生き延びてしまった。後者はもっと酷くて、黒幕のわりに、一切制裁を受けることなく気持ちよく成仏していった。は?

 終盤の、不死性のバーゲンセールもあまり良くないと思った。どうせ血を飲んで生き返るんでしょ、感が出てしまっていた。特に、人がごみのように死んでいく殺伐とした世界観なのだから、もっと死を大切にすべきだと思う。命が綿菓子よりも軽い世界観だからこそ、コシチェイの不死というのが異質かつ恐ろしいものになるのではないだろうか。ドラゴンボールを使えば生き返る、ではないのである。

 不満を書き連ねたけれど、決して面白くないわけではなくて、面白い、良作ではあると思う。でも面白いがゆえに、少し残念な部分が際立ったしまったように思う。総じて、瀬戸口の新境地と見せかけて、云っていることも、やっていることも、よく見るといつもの瀬戸口なので(過去の作品で云うと、犬憑きさんが近いと思う)、瀬戸口を求めている人には問題なくおすすめできるだろう。


3.印象的なキャラクタについて

・見土道夫
 最初はタイプBの働き口をつくるために新たな名産品をつくろうと奔走していたけれど、流れに飲まれて愚連隊のリーダとなり、最後はあっさりと退場してしまう。中盤までの、今の社会でタイプBが生きるためにはどうすればいいのかと悩み、手探りながらも行動する姿がとても好きだった。どこかで老人たちに反旗を翻し、亮とともに新しい街の秩序を模索してく流れなのかな、と思って読み進めていたので、結局は老人たちに流され暴力に訴えてしまったのが悲しい。惜しいし、残念なキャラクタだと感じた。

・路地邦昭
 本作の語り部であり、もう一人の主人公。このキャラだけやたらと情報量が多かったから、そんな気はしていたけれど、tipsも彼が書いているらしい。結局、復讐を果たすことができなかった。最後のコシチェイのフォルムチェンジだけで満足だったのだろうか?

・馬世傑
 強くてイケメンなのは好きなんだけど……。彼の周りの心理描写が薄く、どうして亮に従っていたか、どうして亮の死後反旗を翻したのか、ほとんどわからない。後でアーカイブでまとめて触れられるのかと思ったけれどそれもなかったので、消化不良なキャラの一人。

・汐松子
 tipsを見たときに、亮の恋人って書いてあって驚いた。恋人っぽい描写、あったかしら?
 物語は、彼女と亮の二人の出会いによって幕を閉じるわけだけど、このシーンでは沼の男、ないし唐辺葉介のドッペルゲンガーの恋人を思い出さずにはいられなかった。つまり、まったくハッピーエンドだとは思わなかった。それどころか、非常に締まりの悪い話になってしまっていたように思えてならないのだ。

→参考 ドッペルゲンガーの恋人
https://sai-zen-sen.jp/works/fictions/doppelganger/01/01.html
 
こんなこと書いていた瀬戸口廉也が、素直に彼らを祝福しているのだろうか……?

【追記】川澄藍子と汐松子について
 川澄藍子とは、唐辺葉介のPSYCHEに出てくる主人公の幼なじみである。キャラとしての立ち位置が、松子と非常によく似ている。というのも、この藍子は主人公の想像によって創られた哲学的ゾンビだからである。主人公の教育によって肉の塊から人格を得た松子と、主人公の想像により無から生み出された人格である藍子。いずれも、主人公によって作られた人格である、という共通点がある。また、幼なじみであり、それ以上に親密な、恋人と呼んでも差し支えない関係である点も似ている。
 白紙から(自分好みに)構築した異性、という特異なキャラが物語の最重要人物とされている部分に、瀬戸口の癖を感じる。たぶん、そういうのが好きなんだろう。
 メッセージ性を紐解くのは、なかなか難しい。たとえば、他人は自分の思い通りにはならないものだというメッセージと受け取ることもできるし、本当に自分を理解してくれるのは自分=自分が0から構築した自分の半身のようなものである藍子や松子だけ、という諦観とも受け取れる。この考察にはあまり意味がないだろう。

 PSYCHEは、唐辺葉介と名義を変え小説家へと転身した際の処女作である。したがって、ここに彼のやりたいこと、好きなことが詰まっていると考えて良いと思う。また、後に書かれたドッペルゲンガーの恋人でも、似たようなエッセンスを感じられる。つまり、彼はこういったヒロインが好きなのである。僕はとっても佳いと思う。

 (なお、本作の本当のヒロイン(?)は太刀川先生だと思う……。)


4.おわりに

 世界観とか、キャラは本当に良かった。でも最後の方の締まらなさがとても残念に感じたのも事実で、惜しいなと思った。世の中に出回っている瀬戸口廉也と唐辺葉介の作品は、carnivalの小説を除いて全て触れてきた熱烈ファンであるから、最高!神!って絶賛したかったのだけど、そういうわけにもいかない。もやもやの残る作品だったけれど、こうして文章を書いているうちに落ち着いてきたので、まあ、いいか。

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今回も、京都秘封の話をあまりしない

 2022年9月11日、第十一回科学世紀のカフェテラスに参加した。2018年を最後に、新型コロナや僕自身の都合から参加できなかったため、実に4年ぶりの参加となる。秘封といえば、というイベントなので、秘封小説書きである僕は個人的に一番大切にしているイベントでもあった。そんな一番大切にしているはずのイベントに新刊を持ち込めなかったことは、とても悔しかった。本当は秘封スチパンの続きを持っていきたかったが、既に1年以上書いては消してを繰り返す日々が続いているとおり、非常に苦しんでいる。もう少しだけ待って欲しい。

 新刊を持ち込まなかったため、イベントに対する感想はほとんどない。漫然と参加して、帰ってきた。それだけだ。でも、今回描いたポスターは悪くなかったと思う。多くの人が目を留めてくれたように感じた。小説書きが絵を描ける数少ないメリットだろう。

 最近気づいたのだけれど、創作というのは弾性的な力が働いているように感じる。つまり、距離が離れれば離れるほどに惹かれるということ。小説を書こうと思っているときは気付かない。でも、執筆から離れていると、ふとした時に、どうして自分は小説を書いていないのだろうか?と思う瞬間が訪れる。一度そう思い始めると、急に小説を書きたくなる。書かなくてはいけない、という一種の強迫観念に駆られる。メモ帳に断片的なアイデアが書き溜められていく。そして、それらのアイデアをもとにして、新しい小説の執筆がはじまる。でも、書き始めたときには既に熱はどこかに行ってしまっていて、乾いた義務感だけが手元には残っているのだ。
 この現象は何かに似ているな、とずっと思っていた。そして、ばねに似ていることに気がついた。フックの法則だ。高校物理を思い出して欲しい。F = kx のことを云っている。違うのは、本来定数であるはずのkも、僕自身の気分によって変化することだろうか。完全にランダムではなく、時間の函数のような気もする……。やめよう。

 恐ろしく取り留めのない内容だが、最後にもう一つだけ。今回のイベント参加で印象的だった出来事を一つ。と云っても、イベントの前日の話だが。
 今回も友人に同行してもらった。その友人と夕食後、宿に戻って喋っていたのだが、驚くことに、19時前から次の日の3時まで、絶えることなく話していた。本当に、いったい何をそんなに話すことがあるのだろう、と思う。でも、僕たちは8時間も素面で、ぶっ通しで話していた(何なら徹夜をする流れだった)。それが一番印象的だった。何もかもが憂鬱な夜にの、「僕」と「真下」のような感じだろうか。あまりにも喩えが悪いし趣味も悪いが、たぶんそんな感じだろうな、と思った。

あまり例大祭の話をしていない

 2022年、第十九回博霊神社春季例大祭に参加してきた。実に三年ぶりになるサークル参加は、正直に云って渋い結果だった。欲しかったCDは買えなかったし、本の売り上げも散々な結果だった。一緒に来てくれた友達と話していたら終わってしまった。まあ、例大祭はこんなもんだよな、という感想だった。
 でも、気分は悪くない。嬉しかったこともあった。僕がBOOTHで無料公開している沼の女が面白かったと、売っていた本をすべて買っていってくれた方がいた。ああ、本当に僕の本を読んでいる人がいるんだな、と思った。読者の声を聞くと、はじめて自分の書いた小説に広がりを感じる。僕が虚空に向かって投げた球を受け取る誰かがいるのだと実感できる。こうしたコミュニケーションがモチベーションに繋がるので、売り上げ云々は些末な問題だと思えるのだ。


 ここからは、今日、誰も来ないブースでぼけっと人の波を眺めていたときに考えていたことで、取り留めもない発散した思考だ。

 昔の話だ。デートで大型デパートに行ったとき、彼女は化粧品が見たいと云った。僕はついて行くことにした。化粧品売場に近づいたとき、彼女は「わたし、このにおい好きなんだ。女性のにおいって感じがする」と、自分の恥ずかしい秘密を打ち明けるように、目を伏せて云った。僕はあの、化粧品特有の人工的なにおいがあまり得意ではなかった。だから、彼女の云うことが理解できなかった。
 たぶん、あれがはじめて、彼女のことを理解できないと知った瞬間だった。
 僕と彼女は、お互いに他の異性を挟みながらも、通算で3年以上に渡って付き合っていた。だから、彼女が知らないであろう彼女の首の後ろの黒子の位置まで、僕は精確に知っていた。つまり、僕は彼女のことを誰よりも(もちろん、彼女自身よりも)理解しているつもりだった。
 そんな彼女が、僕の理解できない考えを持っていることに、有り体に云って絶望した。それは、若い頃の僕が持っていた、過剰なまでの自信に裏打ちされた全能感から来るものだったけれど、確かにあのとき、僕は酷くショックを受けた。
 この記憶は、僕にとって非常に印象深いもので、時折フラッシュバックする。今では、あのとき彼女の云った言葉の意味も、彼女が見せた表情の意味も、何となく想像できる。しかし、それは理解ではない。僕の中で完結した妄想であって、実際はどうなのかわからない。本当のことはいつも不透明で、わからないものなのだ。

……ここまで、僕は過去を回想する形式で話を書いたけれど、全てフィクションかもしれない。僕は小説書きであるから、こういったストーリィを作るのが趣味だ。あるいは、僕は自分の記憶だと信じているけれど、実は妄想の可能性だってある。本当のことは、誰にもわからない。

あとがきと後悔

去年の今頃、僕はMUSICUS!の発売を心待ちにしていたと思う。あの瀬戸口廉也が帰ってくる、と聞いて胸を躍らせた人間は少なくないだろう。僕もその一人だった。
 もうあれから一年も経ったらしい。本当に虚無な一年間だったな、と振り返ってみて感じる。静岡例大祭も京都秘封もなくなり、サークル活動を開始してから、はじめて一度もイベントにサークル参加をしない年になってしまった。とはいえ、今年も例年通り、二本以上小説は描いているのだ。それらは、発表する機会が失われてしまったから、BOOTHやDLsiteといったサービスを利用して頒布した。やはり、イベントで頒布したときほどは多くの人の目に触れないため、売上としては小規模だった。作品のクオリティとしてはそれなりに自信があったので、非常に残念だ。

 このブログでは、小説のあとがきの補足、という蛇足極まる何かを書いている。小説の末尾にも見開き1頁程度の分量で既にあとがきは書いているのだが、あれは読者の読後感を損なわないために、非常に簡潔に記述している。たとえば、映画を観終わったあと、突然舞台袖から監督が現れ「この作品は~~にこだわっていて、~~というテーマで……」と説明しはじめたら萎えてしまうだろう。つまり、そういう配慮だ。しかしながら、何か作品を作る以上、そこには溢れんばかりの想いがあり、それを読者に早口で説明したくなってしまうのだ。だから僕は、こうしてチラシの裏に書き留めておき、誰でも見える形にしておくことで、その衝動を抑えている。だから、どうか許して欲しい。


・赤橙~What Dreams Do Androids Have?~

 自分でも続くと思っていなかった秘封×スチームパンク小説の二作目。既に設定は出来上がっているから、あとは書くだけという形で、そんなに苦労はしなかった。それに魔法の言葉
「東方の二次創作なんて、だいたい東方でやる意味ないでしょ」
があるので、本当に好き勝手にやった。
 でも全く苦労しなかったかと云われるとそうではなくて、幽々子様のキャラクタには非常に悩んだ。妖々夢編で幽々子様が出てくることは決めていたのだが、本編でも掴みどころのないキャラクタとして描かれているため、どう描写したものかと非常に悩んだ記憶がある。幽々子様っぽさを感じて貰えたら、とても嬉しい。永夜抄編では、妹紅と蓮子で色々したいなと思っていて、ガンアクション多めになっている。書いていてとても楽しかった。
 僕は秘封スチパンは書いていて楽しいが、読者が置いてきぼりになっていないか不安である。まあ同人である以上、刺さる人には勝手に刺され、という心待ちでいいのかもしれない。複雑な設定を持つスチームパンクで、主人公がエリートのチームから追放されて見返すことも、ハーレムを作ることも、無双することもない、時代の流れに逆らったお話であるから、奇特な人だけついてきて欲しい。シリーズものとして舵を切ってしまった以上、必ず完結させることを、ここに約束する。

・不透明フラクタル

 仮タイトルは「他愛もない百合短編~万引き編~」である。いくつか裏で書いていたオリジナルの短編百合小説を適当に手直ししたものである。今年のテーマとして、「簡潔にまとめる」というのがあったので、短編部門で百合姫コンテストには投稿した。感想としては、一つの物語を描くにあたってキャラ設定の説明が必要なものは2万文字が最低ラインだな、と感じた。同人小説であれば、ある程度のキャラ設定が読者の中にあるため説明を省略できるが、オリジナルでそんなことをすると、薄っぺらい作品になってしまうだろう。改めて短編の難しさを感じたし、短く纏めることのできる人は凄いな、と感心した。
 人生ではじめて主人公とヒロインを高校生に設定したのだが、やはり無茶だったな、と感じた。あと、ツンデレも苦手である。「私」に名前を与えなかったのは読者に彼女に感情移入をして欲しかったからなのだが、感情の死んでるキャラに感情移入というのもおかしな話だと後で思った。色々と酷い小説だが、爽やかさを意識して作っているから、陰気なサーカスの小説としては清涼感があったのではないだろうか。

 今後の予定だが、12/31の秘封蓮花蝶オンラインで短編三部作の一作目を発表し、その後も執筆が完了次第、随時公開していく。ただ来年は色々忙しいため、どうなるかは分からない。また、三部作が完結したら、秘封スチパンの続きを書いていく。あまり考えていないのだが、たぶん四部作になると思う。群青、赤橙に連なる次の色を、誰が待っているのかは知らないけれど、楽しみにして欲しい。
 流石に一年間一度もブログを更新しないのもな、と思って勢いで雑な記事を書いてしまったな。後悔は先に立たない、というのは往々にして真実であると、身をもって体感した。

MUSICUS!感想~この、くそったれな世界に、精一杯の愛をこめて~

半はネタバレを含まない全体的な感想。後半はネタバレを含みつつ、瀬戸口廉也氏の過去作の話を交えてアレコレ述べる。


CLANNADは人生って言葉がある。これは痛い発言扱いされているのだけど、筆者はそんなに間違ってないと思っている。
多くの恋愛ADVは、人生のごく一部にスポットを当てて描写されている。たとえば学園生活とか、社内恋愛とか。でもCLANNADは、学園生活から始まり、結婚し、子供ができて、主人公は父親になる。要するに、描写されている期間が長い。だから、他の恋愛ADVと比較すれば、人生を描いているって云ってもいいだろう。

MUSICUS!は人生を描いている。
作品全体として、人生観を問うような作りになっているし、主人公の心情を追うことで、自然に彼の人生を追体験することができる。

推奨クリア順は
弥子→めぐる→no title→三日月

推奨というか、おそらくこの順でやることが想定されているんだろうなって思った。

瀬戸口氏の書くキャラの面白いところは、それぞれのキャラにちゃんと人生があるところだろう。キャラは単なる舞台装置に留まらず、その思想や言動にはちゃんと背景が存在している。だから、フィクションである物語にリアリティが感じられる。それはきっと瀬戸口氏自身の人生経験であったり、他者への観察眼のなせる技で、心の底から尊敬しているし、畏怖している部分もある。

とにかく、キャラが生き生きとしている。どのキャラにも一定の理解が出来るし、愛せるキャラもたくさんいる。当然不快はキャラもいるけれど、その不快さにもきちんと理由があるのが素敵だと思う。


全体の感想は以上でおわり。






























以下、ネタバレを含む雑記。


不快さにも理由があると云ったけれど、香織とかいうクソ女は本気で殴り飛ばしたくなった。それを許してしまう主人公にもイライラしたし、本当に彼女まわりの話が不愉快だった。
でも同時に、主人公の異常さを表現するにはこれ以上になく効果的な描写であったとも思う。

主人公、対馬馨は異常者である。
sawn songの尼子司や、死体泥棒の塩津功平に連なる、無感情系精神異常者の系譜。作中でも血の通わないロボット扱いを度々受けているけれど、その通りで、本当にどこまでが本心なのかが分からなくなる瞬間がある。人間のふりの上手い、人間でない何かじゃないだろうか……?
でも、彼の視点で語られると「確かにそうかもしれないなぁ」なんて思えてくる瞬間もあって、その辺が瀬戸口氏の上手さであり、人間の真似が上手いってことだ。

・弥子√
弥子は可愛い(可愛い)。
学園モノ恋愛ADVを瀬戸口スパイスを足した、王道な作りだった。王道を王道のままに為しているから、ありきたりと云ってしまえばそうかも知れないけれど、やっぱり面白いからこそ王道なわけですよ。

・めぐる√
My favorite heroine、めぐるさん。
弥子√が学生の恋愛なら、めぐる√は大人の恋愛。老いて呆けてしまう恩師は、祖母や祖父、両親と置き換えれば、極めて身近で、誰もが向き合わなくてはいけない問題だろう。自分自身の事ではなくて、周りの人間の事を考えなくてはいけないという点で、アダルトな√といえる。
筆者がめぐるさんが好きだから、割と好きな√だったけど、客観的に考えると、地味めなお話かも知れない。

・no title
澄√とか、単純にBAD ENDとか呼ばれているけれど、何者にもなれなくて、誰も愛せなかった、名状し難い√ということで、エンディングテーマにちなんでno titleと呼ぼうかなと。
主人公が花井是清に追いついてしまう√なのかも知れない。分からないけど。とにかく、主人公は音楽に、ロックに殺される。それも花井さんが自殺したのと同じ年齢になった時に。素敵な皮肉だと思う。
凄惨で、本当に何の救いもない純粋なBAD END。過去の瀬戸口氏の作品を読んできた人なら、三日月を云い含めるシーンや、宗教にハマる彼女とか、風俗嬢の彼女とか、一人泥沼に沈んでいく主人公とか、「あぁ、これは間違いなく瀬戸口廉也が書いたんだな」って思える描写がふんだんに盛り込まれている。堪らないな。
全ての√で好きだけど、この√の金田は特に好き。

・三日月
最後まであんまり好きになれなくてごめんね、三日月。
TRUE END。これで瀬戸口ロックンロールが終わってしまうと思うと感慨深いなぁとか、プレイ中は全く思わなかった。直前にプレイしたno titleの絶望感から逃れたいという一心で、救いを求めるようにプレイしていた。
三日月の心が荒んでいったり、アシッドアタックを食らったり、「救いはないのかよ!」って叫びたかった。
でもね、全部スタジェネが持って行ったよ。キラ☆キラをプレイしていると、より一層感慨深いと思う。キラ☆キラはスタジェネの演奏から始まった。そして、MUSICUS!の終わりもスタジェネの演奏で締めくくられる。八木原さんが格好良すぎるんだよなぁ……。ライブが始まる前、花井さんの声が聞こえてきた瞬間、主人公と一緒にぼろぼろ泣いた。ズルいじゃない、あの演出。
キラ☆キラを自虐したり、椎野きらりの名前が出てきたり、行ったことのあるライブハウスが出てきたりと、プレイしていて「おおっ」って思うシーンが多かった気がする。
ラストもすっきりまとまっていて、爽やかな読後感だった。プレイして、本当によかったと思えた。

総括するとMUSICUS!は、「いきます」から始まる人生だった。

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Author:clown
動物も居なければ、トランポリンもブランコも無い、道化師1人の演目を御覧あれ。


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